都心通行料金の問題


 慢性化している都心部渋滞の解消策として導入が検討されている、都心通行車両からの料金徴収に関する問題点です。
 基本的には、ニュース等で見ただけなので浅い知識ですが、ちょっと思うことがあるので、このコーナーを作りました。
 


 東京都において、一般道の通行車両からも通行料金の徴収を考えているようです。
 その理由は上記のとおり慢性かしている都心部渋滞のの解消ということです。たしかにシンガポール等では行われていたりしますし、その効果はあると思われます。
 では、1.現在の東京における実現可能性2.問題点について考えてみたいと思います。
 


1.現在の東京における実現可能性
 通行車両からの料金徴収は渋滞解消の有効な一手段であるため、問題解決のための一手段として、この発想(政策)自体については、賛否両論あるかと思いますが、ここでの論議は行わないこととします。理由は、発想自体の賛否(民意の賛否)に如何に関わらず、この政策を実行に移す(実現する)時点で問題があり、現実的な実行は無理だと作者は考えるからです。
 では、この発想を実現するための問題点を考えてみることとします。
 ある政策(民意の如何を関わらず)を実行するにあたり、なにが必要となるでしょうか?それは、その政策を実行できる技術とそのための費用です。
 極論的な例えですが、ある小さな市町村で「太陽系外まで宇宙旅行できるようにする!」という政策があったとします。しかし、どんなに民意が支持していても、現時点の技術では実現は無理ですよね。また、「住民全員が月にいけるようにする!」という政策の場合は、人類の技術的には可能(ロケットを多量に量産すればよい)ですが、その費用はとうてい一市町村の税金では無理ですよね。
 以上の例は極論ですが、どのような政策でも、その政策を実行するためには、技術と費用の両方が必要なのです。

 ちょっと難しい話ですが経済学では一般道は公共財として分類されています。公共財の説明は専門的になるの省略しますが、そのイメージは税金でつくるべき物&システムのことだと思ってください。すなわち一般道は税金で作るべきとされています。その理由が、全ての個別的具体的な通行者からの料金徴収が不可能かそれに近い状態だからなのです。これが本当なら、東京都の「一般道の通行車両からも通行料金の徴収する」という政策とは矛盾しますよね・・・。そのあたりを考えてみたいと思います。
 
1-1.技術
1-1-1.単純な技術的問題
  最近までの経済学の本では、道路の通行料金を徴収する方法として、高速道路で行われているように有人の料金所を設けることをイメージしてきました。故に道路を使用する全ての人から料金を徴収するには、全ての道路に有人の料金所を設置しなければならなかったのです。そして、全員が一時停止をして料金の支払いを行うのです。むちゃくちゃな話ですが、でも単純な技術的見地からは可能です。
 しかし現実の世界では、技術の進歩はすばらしく、有人の料金所をつくらなくても、一時停止をしなくても、料金の徴収は可能となりそうです。高速道路での使用が考えてられていて導入されつつあるシステムですが、通行車両にある機械を搭載して、ゲートの下をくぐると自動的に認識するのです。これにより高速道路に入った場所と、高速道路から出た場所が特定されるのです。そして後は、指定した口座から引き落しをすれば料金支払いは完了です。このシステムを一般道へも普及させれば、単純な技術的問題は殆どなくなりつつあると言えます。
1-1-2.総合的な技術的問題
 上記のように、料金徴収の具体的な手法は確立されつつあります。
 そして高速道路のように、出入口がはっきりしていて出入口以外からの進入が不可能な場合は、そこで利用者の把握が簡単にできるので、ゲートの設置場所は容易に決定できますし、その数量も限定できます。
 しかし一般道の場合、複雑に入り組んでおり、自宅を一歩でたら公道なため、正確に料金徴収するためには、全ての家や施設の駐車場の出入口にゲートを設ける必要があります。全ての家や施設の駐車場に一台一台を識別できるゲートの敷設というのは、その情報伝達の通信設備等の技術を考えると、難しいものがあるかもしれません。但し、近年の情報通信の技術や、それに伴うインフラ(社会的基盤)の整備にはめざましいものがあり、いずれは可能となるかもしれませんが。
1-1-3.東京都の技術的問題
 以上は一般論でしたが、次は東京都に限定して考えてみます。
 東京都の都心部は多くの河川に囲まれています。また、都心部へつながる一般道はいくつかの環状線によって区切られています。これらの地理的特性を利用して、橋や環状線との交差点にゲートを設けることによって、ゲートの設置場所は容易に決定できますし、その数量も限定できるようになります。そのため、情報通信のインフラ整備も既存のシステムの延長線上で十分対応可能だと思われます。よって、都心部に限って言えば技術的問題点は殆どなくなりつつあると言えると思います。

1-2.費用
1-2-1.一般論
 次は費用について考えてみます。
 最近までの経済学で道路が公共財(税金でつくるべき)とされてきた理由は、全ての道路に有人の料金所を設置という技術において料金を徴収した場合、そのコスト(料金所の設置費用や、人件費)は膨大となり現実的でないとされてきました。現実的でないというのは不可能(または不可能に限りなく近い)ということです。
 また、最新の技術をもってしても、全ての家や施設の駐車場の出入口にゲートを設ける費用はやはり非現実的と言わざるを得ないでしょう。税金で負担するにしても、個人で負担するにしても大変なものになると考えられます。
 現時点における一般道からの料金徴収は、技術的可能性に関わらず、その費用面から実現困難なのです。
1-2-2.東京都について 
 東京都の場合、1-1-3.東京都の技術的問題で見たように、ゲートの設置場所は容易に決定できその数量も限定できるために、ゲートそのものの費用は限定され、不可能と言えるほどのものとはならないと考えられます。しかし、問題となるのは、車両に積む機械(端末)の費用なのです。
 東京都は、都内の車両だけでなく、他の地域から流入してくる、都内を走行する全ての車両(自転車等一部の車両については除外されるかもしれませんが)から、その料金を徴収する予定となっています。これが問題なのです。すなわち、理論的に考えると日本で登録(登録制度の無いものは販売)されている全ての車両が、都心部を走行する可能性を有しているのです。よって、公平性を確保するためには、全ての車両へ端末の機械を搭載しなければならないこととなります。北海道から沖縄、その他にも離島等、すべての車両にです。沖縄にある耕耘機が都心部を走行するかどうかという現実性の有無はともかく、その可能性があるからです。もし、その耕耘機が都心を走ったなら、そこから料金を徴収しなければ公平でないからです。耕耘機はともかく、地方の人が一生に数回ほど東京見物に自家用車を使用するという可能性は十分考えられ(イメージでき)ますよね!
 誰が、日本中の車両へ端末の機械取り付ける費用を負担するのかです。東京都が都民からの財源で全国の車両分を負担するのでしょうか?それとも、東京へ行くかどうかもわからない人が、居住してもいない自治体から個人負担させられるのでしょうか?なぜなら、機械を積載していない車両(ただ乗りの車両)を全て摘発してそこから料金を徴収できるかという問題があるからです。また、二輪車に至っては、法律上、エンジンのかけないで押していると、歩行者扱いだったりしますが、これは車両と見なすのかどうかとか言った、他の法律との整合性なんかの問題もありそうです。
 以上のように多くの問題をかかえ、非現実的と考えられるでしょう。
 ここで、では公平性を無視すればよいのではと思われるかもしれません。しかし、自治体等による通行料金は一種の通行税と同じとみなすことができます。税金(課税)、公平性が要求されます。同じ条件なら同じ額を支払う必要があるのです。

1-3.現在の東京における実現可能性の結論
 以上のように、一般道からの料金徴収は費用の面から実現可能性は極めて低いと考えることができると思います。


2.疑問点
 仮に技術と費用の問題を解決して、政策の実現が可能となったとしても、他の問題が残ります。
 例えば、料金徴収ゲート付近に住む住民があげられます。「近所までちょっと出かけるのに、出かける都度、料金を支払わなければならないのか」といった問題です。極端な例をあげますと、ゲートの隣に住んでいる人は、隣に出かけるたびに料金を徴収されるのかと言った問題です。また、都心部の通行距離(時間)と料金も問題です。徴収エリア内を少しだけ通行した場合と、たくさん通行した場合です。距離・時間いずれによって計算するにしても、第三者によるその量的把握は困難です。
 これらは、問題解決は可能です。回数や時間、距離によって料金を変えるのでなく、1日に一回でも徴収エリアに入ったら、1日○○円として徴収するのです。
 しかし、そのような曖昧な基準で果たして通行量を抑制できるのでしょうか?都心部を使用している車両は、時間的効率等から都心部を通行しなくては、目的地へ通行できないから使用していたり、仕事でやむを得ず使用したりしているので、1日フリーパスみたいな料金体系では、その効果が疑問です。特に仕事で使用している場合は経費として最終的に消費者に負担させられる可能性が大きいです(なぜなら、同一地域内の同じようなライバル会社はみな同じような料金を支払うであろうから、無理して価格競争しなくても収益は変わらないと予想されるため)。だとしたら、企業は無理をしてまで通行を控えるでしょうか?疑問が残ります。


結論
 東京都心部においては、現時点では政策の実現可能性は極めて低いと考えられ、かつ、仮に実現できたとしても、その効果は疑問が残ると思われます。

補足:他の解決策
 補足ですが、一般道の利用料金徴収が困難だからと言って、このまま都心部の慢性的渋滞を放置しておいてよいとは思いません。環境問題からも、経済的効率からも解決した方が望ましいです。
 しかし、この問題は小手先の解決策では難しいと思います。もっと抜本的な解決が求められると思います。
 例えば、東京都の一極集中を緩和するとかです。しかし、これは道路問題以外にもいろいろな問題が複雑に絡んできます。
 道路問題という立場から考えたら、高速道路のよりいっそうの整備が求められていると思います。都心部を通行する車両には、都心部に用事があるのでなく、他地方への通過点にすぎないという車両が結構あるのです。しかし、都市間を結ぶ高速道路の多くは都心部で首都高速によって連結されており、都心部を通過せざるを得ない構造となっています。よって、それぞれの(都市間を結ぶ)高速道路の連結道路を整備する必要があると思われます。都心部を通過しない連結用の高速道路として、外環自動車道と圏央道がありますが、その整備は進んでおりません。これらの整備が都心部の渋滞緩和に関して必要だと思います。これら整備により、首都高速の渋滞が緩和されると、都心部に用事のある車両が、一般道から首都高速へとシフトされ、一般道の渋滞も緩和されると考えられると思います。また、渋滞緩和により、排気ガス等の環境問題の対策の一つとなり得ると思います。
 なお、高速道路建設(の財源)についての作者の考え方は、道路・交通問題の「高速道路の料金問題」にて。

追記
1.自動料金徴収システムの端末について
 高速道路の自動料金徴収システムのための端末機器(自動車に搭載する機器)の価格は3万円になるようです。
これが高いのか安いのか・・・?
 ところで、高速道路の自動料金徴収システムにおけるプライバシー等の問題の是非は別にして、自動二輪車用の端末は開発されているのでしょうか?振動や風雨に対する問題の解決、さらには、積載場所の確保のための軽量小型化がなされなければなりませんから。将来的に都市部の一般道や国道の橋とかにも使用するのであれば、原付自転車にも積載できなくてはなりませんし。また、二輪車は転倒する乗り物です。転倒する度に故障し、費用が発生するような機器では困ります。
 そして、東京都の問題の場合は自動二輪車などにはどう対応するのでしょうか?もちろん、渋滞対策ということで、渋滞原因となりにくい自動二輪車などから料金徴収しないのなら、問題ないのですが・・・
 また、高速道路では自動料金徴収システムの稼働が始まりましたが、すぐの普及は結構困難な雰囲気がなきにしもあらずといった感じです。

2.ステッカー方式について
 料金徴収方法として、自動料金徴収システム意外にも、ステッカー方式等も考えられているようです。都心部を通行する車両には、事前に購入したステッカーを貼り(購入する=通行料金を支払う)、ステッカーを貼っていない車両を違反として捕まえるらしいです。まだ私には詳しいことは分かりませんが、おそらくそのような方式だと思われます。
 この方式では、技術的問題点はありませんが他の問題があります。ステッカーを貼ってあると都心部を走行できるのですが、貼ってあると通行できるということは、一定の料金(ステッカー代)を支払うとその使用量(走行距離/走行時間)は制限がありません。基本的に都心部を通行する必要がある者が渋滞を覚悟してでも通行していると思われる現状では、通行する人はステッカーを購入してしまえば、その必要量(=現在走行している量だと思います)に応じて走るでしょうから、ステッカー制を採用しても通行量はあまり変化ないと思います。但し、ステッカー代(通行量)が非常に高ければ、通行量はある程度抑制されると思います。しかし、それでは、通行できる者は一気に減少してしまいます。それでは、本来公共のものであるはずの道路の意味がなくなります。
 また、ステッカーを貼っていない車両を発見して捕まえる方式では、捕まるまでは無料で走行でき、不公平感が発生すると思われます。

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